「韓流ラブストリー 恋の糸」第34話

「韓流ラブストリー 恋の糸」(スカイプが繋ぐ恋 三十四話)
著者:青柳金次郎


「イルリョン、この人は……」
「この人はSKグループの社長令嬢、ク・サミンさんです――」
「なんで私のジャンヨルとイルリョンの前にあなたが立っているのか理解できない。一般人は一般人同士でよろしくやっていればいいのよ――」
「…………」
「それは言い過ぎじゃないのか! サミンさん――」
「その通りじゃない、イルリョンもこれから先の自分の会社のことを考えるなら、私の言う通りにした方がいいんじゃないのかしら……」
イルリョンを睨み付けるサミン、その間に立ち尽くす怜音、と、その時サミンを呼ぶ声がする。
「お嬢様、そろそろ参りましょう。飛行機の出発時間に間に合いません――」
「分かったわよ、すぐ行きます――」
サミンは執事に促されて車へと向かう。怜音は突然現れてジャンヨルは私の物、と豪語して去っていくサミンの後姿を見て、やはりあの噂は本当だったのだと確信する。
「イルリョン、今夜食事でもどう?」
「エッ? いいですけど……」
「いろいろ教えてほしいことがあるの……」
「…………」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第34


そういうと怜音は踵を返しビルの中へと消えていった。怜音の後ろ姿には今まで見たことのない怒りとは違う、闘志のようなものがみなぎるのを感じた。その怜音の後姿を見たイルリョンは、嫌な予感を感じずにはいられなかった。
「お疲れ様、イルリョン――」
「お疲れ様怜音さん――」
二人はテーブルをはさんで向かい合った。イルリョンの表情は少し強張っていた。怜音にどんな質問をされるのだろう、と内心気が気ではないのが表に現れている。
「早速なんだけど、朝の人について詳しく教えてくれない――」
そういわれてイルリョンはやっぱりかぁ、と思いながら前を見ると、切羽詰まった怜音の顔が見て取れた。そんな怜音を見てイルリョンは渋々サミンについてのことを話しだした。SKグループの社長令嬢であることは勿論のこと、ジャンヨルとサミンとの過去の経緯、そして自分とサミンとの間柄についても、怜音はその話を聞き、ときおり顔を曇らせながらも黙って話を聞いていた。
「ありがとうイルリョン、話したくないこともあっただろうけど、全部聞かせてくれてサミンという人がどんな人なのか分かったような気がする――」
「いやぁ、僕はいいんです。ただ出来ることなら怜音さんにはこのくだらない柵には関わってほしくないんです――」
「うん……、でもジャンヨルを愛する以上、避けて通れないことだと思うの、だから私は逃げるつもりはないの――」
「…………」
「イルリョン、ごめんね……」
そう言われてイルリョンは何も返さなかったが怜音を見ながら頬を緩めた。そしてイルリョンは席を立った。怜音はイルリョンを制するでもなく後姿を見送った。怜音の心の中はイルリョンに対する慙愧(ざんき)な想いよりも、今後自分に押し寄せるだろう困難に立ち向かう決意の方が勝っていた。
(怜音さん、あなたはそれほどまでに……)
その頃ジャンヨルは仕事を終えて自宅へと向かっていた。
「ジャンヨル!」
「…………」
「私、お久しぶり……」
「あぁ、サミン……、君には申し訳ないが何も話す事は無いんだが……」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第34


「怜音さんに会ってきたわぁ、可愛らしい人ね――」
「……怜音に、何故?」
「あなたは私と結婚する人なのよ、それをちゃんと理解していただかないといけないと思ったの――」
「なぜ? 君とのことは僕の意思じゃない。それは何度も君には伝えたはずだ、それに怜音は関係ない、彼女を巻き込むな――」
「いいえ、彼女が私たちの間に割り込んでくる以上、私は許さない!」
「割り込む? 割り込んでいるのはサミン、君だ!」
「違うわ、ジャンヨル! あなたも早く目を覚まして、あなたがどんなにあがこうとも、どうすることもできないことなのよ――」
「悪いがサミン、これ以上君と話す事は無いようだね。これ以上僕に関わらないでくれ、勿論怜音にもね――」
ジャンヨルは踵を返すと歩を早めた。
「ジャンヨル待って! どうしてそうなの……」
(怜音……、僕は何があっても君を放さない――)

                    *

怜音は家に帰りシャワーを浴びた。冷蔵庫からハイトビールを取り出しプルタグを抜く、一気に乾いたのどに流し込む、シュワシュワと乾いたのどを潤しながら空っぽの胃袋に流れ込んでいった。イルリョンが席を立った後、怜音もそのまま食事をとらずに店を出たのだった。胃袋がキュルルルとなった。今の自分の気持ちとどこか似ているような気がして苦笑いが浮かんだ。
(ジャンヨル、私はあなたに付いて行くわ……)
窓の外は静まり返っていた。空にはたくさんの星がきらめきながら怜音を見詰めている。怜音は星空を見つめ返す、すると流れ星が一筋の線を描いた。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第34


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