「韓流ラブストリー 恋の糸」第22話

「韓流ラブストリー 恋の糸」(スカイプが繋ぐ恋 二十二話)
著者:青柳金次郎


ミッコの一人息子の悠貴が夕べ塾の帰り道、自転車に乗って帰っている処を後ろから来た自動車に引かれて近くの病院へと運ばれたのだった。
事故現場は見通しの悪いエスの字カーブで悠貴はそのSの字カーブの真ん中辺りに差し掛かったところで後ろから来た法定速度をオーバーした車に跳ね飛ばされたのだった。

「ミッコ! 昨日の夜は何をしてたんだよ! 何度も携帯に電話したけど繋がらなかった。仕事が忙しいのは分かるが電話くらいはでろよ。どうせメールも見てないんだろう……」
「ごめんなさい……、新しいスタッフ連れて歓迎会やってたものだから……」
咄嗟にミッコは嘘を吐いた。(私っていったいナニやってるんだろう……)
「とにかく早く帰ってこい! 悠貴の意識が戻る前に――」
「わかった! これから直ぐ帰る」
電話を切ったミッコの顔は青ざめて表情を無くしている。そんなミッコの顔を見詰め乍ら怜音も黙り込んでしまった刹那、今度は怜音の携帯が鳴った。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第22


「ハイ、もしもし――」
「怜音! ミッコさんの子共が大変な事になっているんだ。昨日夜更けにミッコさんのご主人から武人さんに連絡が入って、子共が事故にあって意識不明なんだけどミッコさんに連絡が付かないんだって、それで武人さんに心当たりはないかと連絡してきたらしい。その後、俺も話を聞いて怜音に連絡何度もしたんだけど連絡付かないから困ってたんだ――」
「ゴメン、ジャンヨル昨日はちょっといろいろあって……」
「ナニ? 色々って……」
「私じゃないんだけどミッコ先輩に……」
その後の話は後で連絡するからと言って電話を一先ず切った。ミッコは慌てふためきながら帰りの便のチケット予約を入れている。
そして何とかチケットは朝一番の便を取ることが出来た。
怜音はそんなミッコを見乍ら昨夜のミッコの話が頭に浮かび心配になっている。
「アッ、怜音、悪いけどこれから帰るわぁ、ごめんね! 後の事は任せた。何かあったら連絡ちょうだい、出れなかったら折り返すから――」
「ハイ、こっちは大丈夫です。ミッコ先輩の方こそ……」
「ありがとう怜音心配してくれて、でもなる様にしかならないから……」
ミッコの表情が一瞬淋しげに曇ったが直ぐに作り笑いを怜音に向けた。怜音はミッコを見詰め声を掛ける。
「ミッコ先輩、大丈夫ですよ。ご主人も分かってくれますよ……」
怜音は苦しさ紛れに口にした言葉は慰めにも何にもならなかった。
(あぁ、私ってバカだなぁ、なに言ってるんだろう……)
「怜音、ありがとう心配してくれて、頑張るよ、私――」
「…………」
怜音は初めて見たミッコの不安げな顔に戸惑いを隠せなかった。そんな怜音を見たミッコは拙いと思い取り繕おうとするが、取り繕おうとすればするほどぎこちない仕草が表に出てしまう。ミッコは堪らず俯いてしまう。
「ゴメン、とにかく帰るわ。会社のことは頼むね、怜音――」
帰りの準備を済ますとミッコは怜音の顔を一瞬見詰めて作り笑いを浮かべ片手を顔の高さまで上げると小さく手を揺らすと部屋を出た。表に出るとカラカラの風にミッコの顔は一瞬にして凍てついた。季節はそろそろ秋が終わりを告げようとしているくらいなのだがなぜか真冬のような寒さを感じるミッコだった。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第22


仁川空港から羽田へと向かい、羽田からタクシーで悠貴が運ばれた病院へと直行した。
そしてミッコは病院の正面玄関を勢いよく突き抜けて走った。無心でただひたすら走った。途中ナースステーションで部屋の番号を聞く、そこから先はまた歩を速める。背中で看護師の何か呼び掛ける声がしたような気がしたがそのまま急いでミッコは悠貴のもとへと急ぐ。
部屋のドアを開けるとベッドに横たわる悠貴の姿が一番に飛び込んできた。と、そのベッドの横に佇みミッコを見詰める雄介、夫の姿から苛立ちと怒りのオーラがミッコを取り囲んだ。
「何やってたんだ! 悠貴が……」
「ごめんなさい、悠貴はどうなの?」
怒りを押し殺すように雄介はギュウっとこぶしを握り締めてこたえる。
「事故にあった後、一度も目を覚まさない……」
「…………」
ミッコには何をどうしていいのか分からずただ立ち尽くすばかりだった。悠貴は目の前のベッドの上で顔を包帯でぐるぐる巻きにされている。
そして僅かな隙間から除く瞳は閉じられたままだった。その顔を凝視するミッコの心の中には土砂降りの後悔の雨が降り注ぎだす。その土砂降りの雨はミッコの心を打ちのめす。


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