「韓流ラブストリー 恋の糸」第31話

「韓流ラブストリー 恋の糸」(スカイプが繋ぐ恋 三十一話)
著者:青柳金次郎


「お疲れ様です、只今帰りました――」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第31


「あ、怜音さん、お久しぶりです。お元気でやってました?」
「あぁ、お久しぶりぃ、元気です。みんなも元気そうだね――」
「こっちはみんな元気ですよ、仕事も忙しいし、あれ?ところで今日はどうしたんですか?」
「エッ、ああ、私も詳しいことは聞かされてないんだけど、今晩日本サムスンの社長と会う約束があるみたいでね……」
久しぶりの本社に帰った怜音は懐かしさを感じた。相変わらずみんなが忙しそうにPCに向かって仕事している姿を見て、昔の自分を見ているような気持になっていた。
「あっ、怜音、こっちへ来て!」
ミッコが怜音に気が付き声をかける。
「ハイ――」
「今日は19時からの約束だからそれまではまだ時間あるからゆっくりしてて、私もやらなきゃいけないことがあるからさ、それから怜音、今夜はちょっとしたサプライズがあるからね……」
「エッ?サプライズ……」
(なんなんだろう……、どうもおかしいなぁ、ミッコ先輩と言い、ジャンヨルと言い、おかしい……)
怜音は首を傾げながらいろいろ考えたが何の答えも見つからない。そんなことを考えながら時間はあっという間に過ぎて夕方になった。オフィスの窓から差し込む夕日がなんとなく懐かしく感じた。
「アッ、ジャンヨル、今日はよろしくね。もう来られてるの……」
「いえ、まだついていないですけどもうすぐ着くそうです。あっ来た!」
「えっ?」
レストランの前で出くわしたジャンヨル達とミッコと怜音の前に現れる日本サムスンの社長、怜音はその姿を目で追った。黒塗りの社用車の後部座席から窓越しにこっちに向けて小さく手を上げる。後部座席のドアが開けられ中から颯爽と車を降りてくる。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第31


「お久しぶりです、社長!」
「おおぉ、久しぶりだね、ミッコさん! 会うたびに御美しくなられるねぇ……」
「またぁ、社長の褒め褒めもご健在ですね――」
「はっはっはっ~、まいったなぁ、まぁ今日は楽しくやりましょう」
「はい!」
「怜音はミッコの後ろでじっとその成り行きを見守っていた。
「で、こちらが怜音さんですか?」
ハイと答えてミッコは振り返り怜音を紹介した。
「怜音です。今日はお招きいただきありがとうございます――」
怜音は緊張気味に答える。そして顔を上げると日本サムスンの社長の笑顔が自分に向けられているのに気づき、また小さくお辞儀をした。その緊張した様子を見たジャンヨルが間に入って社長を中へと進める。
「さぁ、社長、中へどうぞ!立ち話も何なんで――」
「おぉ、そうだね。それじゃお先になかへ行かせてもらいます」
社長は廻りへの気遣いをしながらジャンヨルに促されると笑みを浮かべ店の中へと入っていった。
「武人、今日はやっぱりご機嫌ね、社長――」
「そりゃそうだろ、今日はなんたって……」
というと武人は怜音を見詰め微笑んだ。その武人の微笑みがどういう意味なのか分からない怜音はまた頭の中に疑問符が浮かぶ。
(なんなんだろう……、今日はみんなが変だなぁ……)
社長を囲むように5人は席付いた。社長秘書はどうやら車で待機しているようだった。
「じゃぁ、まずは乾杯しようか。ジャンヨル!」
「はい、それでは乾杯!」
さらりと乾杯の音頭を取るジャンヨルに怜音はなんだか疑問を感じた。なんで社長はジャンヨルと呼ぶのだろう? なんで武人さんではなくジャンヨルに乾杯の音頭を取らせたのだろう、とぼんやりと考えているところに怜音はいきなり社長から話しかけられた。
「怜音さん、ソウルでの仕事はどうですか? もう慣れましたか?」
「あぁ、はい、お陰様でどうにかやっています――」
怜音の緊張はマックスに達していた。社長の存在感があまりにも大きくて他の人の存在を感じられない怜音だった。その怜音を気遣いながら会話に入ってくるジャンヨルだった。
「まぁまぁ、今日は社長、仕事の話はいいじゃないですか――」
「おっといけない。つい悪い癖が出てしまったね。ごめんごめん――」
怜音はやたらと親し気に話すジャンヨルと社長のやり取りが気になった。ミッコと武人はそれを微笑みながら見守っている。
(いったいこれはどうなっているの……)
そこに料理が運ばれてきた。
「おおぉ、今日の料理は美味そうだね――」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第31


そういうと社長は頷きながら微笑んだ。そして五人は料理に手を付けながら会話を重ねた。そこには仕事の話は微塵もない。怜音は会話に参加しながらも、もう一人の自分が心の中で首を傾げている。(なんで仕事の話もないのにここで食事してるんだろう……)
そこへ社長が怜音に思い出したように話を振る。
「あっ、怜音さん!そういえば聞きたいことがあったんだ。アミの奴は元気にしてるかなぁ?」
「エッ?アミ?」
怜音は思わず頭の中が真っ白になった。そこへジャンヨルが苦笑いを浮かべながら怜音に話す。
「怜音黙っていて済まない。ここにいる日本サムスンの社長、イ・チャンヨルは僕の父なんだ――」
「エッ……」
怜音の頭の中はますます混乱し、みんなの顔を見回した。ミッコが怜音に声をかける。
「怜音、そうなのよ。私も知っていたんだけどジャンヨルに言わないでくれと口止めされていたから……」
「なんだジャンヨル、怜音さんに何も話してなかったのかぁ、呆れたやつだなぁ、それじゃぁあんまりにも怜音さんに失礼じゃないか……」
「あぁ、はい。なかなか言い出せなくて……」
「怜音さん、すみません。許してやってください――」
その話を聞いて混乱する怜音は思わず体が固まり、急いで頭の中を整理しようとするがなかなか整理できない。それと目の前に座っているジャンヨルが全くの別人に見えてしまうのだった。

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