「韓流ラブストリー 恋の糸」第24話

「韓流ラブストリー 恋の糸」(スカイプが繋ぐ恋 二十四話)
著者:青柳金次郎


「雄介、大丈夫かなぁ、悠貴……」
「…………」
雄介の思いは複雑なままだった。いまだ悠貴の意識は戻らない、ミッコへの蟠りが何層にもなって重なっていた。
だが悠貴を見守る二人の想いは同じだった。それは雄介もミッコもお互いが感じてはいなかったが悠貴を想う気持ちだけは紛れもなく、一人の子を持つ親としてベッドの上で横たわる子どもを思っていた。
(悠貴、おねがい、目を覚まして……)
(目を覚ませ、悠貴……)
雄介は全ての仕事を止めて悠貴の傍から離れない。ミッコも同じだった。会社の方は事情を話して全てを部下たちに任している。ミッコはこのとき大きな決断をしていた。もし悠貴の意識が戻ったら出来る限り悠貴との時間を持とう、雄介と悠貴、そして自分の三人家族を大切にしよう。そんなふうに思っていた。
そしてミッコは気付いた、会社は自分がいなくても普通通りにまわっている、今まで勘違いをしていた。ラバーズは自分がいないと成り立って行かない会社だと、確かに昔はそうだったかもしれない。
だが今はもう違う。多くの社員一人一人がラバーズを支えている。
今回この事を悠貴が身を持って自分に教えてくれたように思えてならなかった。ミッコの瞼が濡れる。悠貴を見詰めるミッコの頬をキラキラと光る雫が真直ぐな線を書いた。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第24


「ミッコ……、お前……」
雄介は横たわる悠貴を挟み、向かいに座るミッコに声を掛けようとしたが言葉は途切れてしまう。
この時、悠貴は眠ったままピクリともしない。雄介は子供のことを想い涙するミッコと、意識の戻らぬまま眠っている悠貴を目の前にして、何もしてやれない自分の非力さを責める。
(悠貴、目を覚ましてくれ……)
雄介は瞼を強く閉じて俯いた……
「マ、マ……、どうしたの?」
ちいさく囁くような声がミッコの耳に届いた。
「エッ? 悠貴?」
見の前に横たわる悠貴は目を閉じたまま動かない。
(確かに今……)
目の前の雄介祈るようにして俯いたままだ。ミッコは辺りを見回す、部屋の中には自分と雄介、そしてベッドに横たわる悠貴しかいない。
(うそ……、嫌よ! 悠貴、逝かないで……)
「嫌よ! 悠貴、逝かないで、悠貴ぃ~」
ミッコは大声で叫んだ、目の前に座る雄介が驚いてミッコに声を掛ける。
「ミッコ、どうしたんだ、急に……」
「今……、悠貴の声が……」
悠貴はベッドの上で眠ったまま動かない。雄介はミッコを想い少し休んだ方がいいと家に帰るように勧める。
「ミッコ、少し休んだ方がいい、疲れてるんだよ。ここは俺に任せろ!」
ミッコは悠貴が事故にあってからほとんど眠っていない。勿論、雄介も同じだ。二人はただただ悠貴を想っている。
お互いの思いが通じる……、そして見詰め合う。ミッコと雄介の間にあったいろいろな蟠りは消える。そんな刹那、二人の耳にささやくような声が届く――
「ママ……、パパ……」
虚ろな目で見詰め合っていた二人の顔がいっきに正気に戻り、視線は二人の間に横たわる悠貴に向けられる。
「ママ、お仕事どうしたの? パパ、何で泣いてるの?」
「悠貴!」
「大丈夫なのか悠貴――」
悠貴の意識が戻った。まるで今までただ眠っていたかのように目を覚ました。ミッコと雄介に生気が戻る。
「雄介、意識が戻った! 戻ったわよ!」
「ああ、戻ったな! 戻ったな――」
「よかった……、雄介……」
二人は抱き合って喜んだ。そして二人は久しぶりにキスをした。雄介もミッコも思った。こうして抱き合うのもどれくらいぶりだろう……、と、その時
「ねぇ、パパ、のどが渇いたんだけど……」
「あっ、ゴメン悠貴、直ぐ何か買ってくるよ――」
「あっ、雄介ついでに先生にも報告してきてぇ!」
「おぉ、そうだな、ああぁ、忙しい。悠貴、それじゃパパいってくるよ!」
この時今まで見失っていた三人家族の姿に変わっていた。
「悠貴、ごめんね。今までほったらかしにして……」
ミッコは悠貴の頭を撫ぜ乍ら頬を寄せる。悠貴は今までに無かったミッコとのひとときに微笑んだ。
「お待ちどう、悠貴買ってきたぞ! お前の大好きなピーチジュース――」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第24


「ありがとう、パパ――」
「悠貴、ピーチジュース好きなんだ……」
「ウン、大好きだよ!」
ミッコはこのときはじめて気付く、我が子の好きなものすら知らない自分に、そして心の底から自分を責めた。目の前には雄介が悠貴の為にピーチジュースをグラスに注ぎ、手渡す光景があった。
(本来これは自分がすること……)
ミッコの中には今までの自分を責めるもう一人の自分がいた。ミッコは黙って二人のやり取りを見ていた。
「ママ、どうしたの? 元気がないよ……」
「どうした? ミッコ」
「ううん……、二人ともごめんね、今まで……」

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第24


その後、悠貴は一週間後には退院した。ミッコと雄介の蟠りもなくなり、仲の良い夫婦に戻った。そしてミッコは必ず週末は休むようになり、平日も悠貴が眠る前には必ず帰って来るようになった。
今回の事でミッコは、自分の心の奥底に眠っていた一番大切なものに気付くことが出来たと思った。


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