「韓流ラブストリー 恋の糸」第17話

「韓流ラブストリー 恋の糸」第17話
著者:青柳金次郎


薄明るくなってきた部屋に目覚まし時計の音が鳴り響く。やがてベッドの上がモコモコとしだすとぼさぼさ頭の怜音が起き上がる。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第17


「ふ~、良く寝たなぁ……」
そしてベッドを抜け出た怜音はまだ意識がはっきりとしない中バスルームへと向かう。全てをサッと脱ぎ捨てシャワーを浴びだす。バスルームは白い湯気が漂った。
(いよいよ今日から始まるのかぁ……)
 怜音は冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのキャップを外す。実は昨夜アミが帰った後怜音は一人で自分がこれから住む街を散歩したのだった。その時見つけたコンビで取り敢えずハイトビールとミネラルウォーターをまとめ買いしたのだった。
 冷たく冷えたミネラルウォーターが喉をゴクゴク鳴らす。ソファーに腰を下ろしテレビのスイッチを入れた。
「? …………」
(あぁ、そうか……、ここは韓国、ソウルだ……)
 テレビから聞こえてくる声が日本語では無く、まだ聞きなれない韓国語だったことからもう一度自分が今ソウルに居ることを自覚する怜音だった。
 怜音は時計に目をやった。六時半を回っている。重い気持ちを引きずるようにしてソファーから腰を上げる。とその時、携帯の着信音が鳴る。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第17


「おはよう! 怜音、起きてるかい」
 電話の相手はジャンヨルだった。日本とソウルとの時差はほとんどない。ジャンヨルも仕事へ出かける準備の合間を縫って電話してくれたのだった。
「ジャンヨル、どうしたの?」
「怜音がちゃんと起きてるか心配で電話しちゃったよ。忙しい時にごめんな――」
「ううん、嬉しい。朝からジャンヨルの声が聞けてホッとした。今日から頑張るよ――」
「心配はいらないよ。国は違っても日本とソウルなら飛行機で簡単に行き来でるんだからさ」
「そうだね、私頑張るよ。ありがとう」
 怜音はジャンヨルからの突然の電話で沈んでいた気持ちが息を吹き返した。同時にジャンヨルの自分に対する愛情を噛みしめることが出来た。
すると一分と経たないうちにまた携帯が鳴る。
「怜音、起きてる。私よ!」
 電話の主は声を聞いただけですぐに分かった。ミッコからだった。
「おはようございます、起きてます」
「どうソウルは? いい処でしょう。それより部屋気に行ってくれた? ラバーズとしては奮発したんだからね、頑張ってよ!」
「ハイ、分かってます……」
「ああそれから取り敢えず来週私ソウルへ行くから、その時はあなたの部屋に泊めてね。打ち合わせもしたいしさ――」
ミッコは元気のいいはきはきとした声で言いたいことを言うと、出勤前で準備があるからと言う事で自分から掛けてきて自分から電話を一方的に切った。
「ミッコ先輩も相変わらずだなぁ、でもなんかこうしてるとあんまり日本とソウルって距離間感じなくなってきたなぁ」
 怜音はブツブツと独り言を言いながら準備を整えると少し時間的には早かったが初日と言う事もあって余裕を持って家を出た。ソウルの街は既に道行く大勢のビジネスマンの姿が見て取れた。怜音はアミが書き残していってくれた地図を片手に街路樹の下を歩いた。
 ソウルの街路の脇には昨日出ていた朝屋台が並んでいる。怜音はそれを横目に(そう言えば何も食べずに来ちゃったなぁ……)
 怜音のお腹がグ~っとなった。それもその筈、昨日の朝アミとカフェで朝食を取った後は固形物を一切口にしていなかった。昨夜も結局コンビニには行ったがビールとミネラルウォーターを買っただけだったので口にしたのは水分だけで、緊張と疲れのせいか直ぐに眠ってしまいそのままだったのだ。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第17


(どうしようかなぁ……)
 するとその時携帯が鳴る。怜音は携帯の通話ボタンを押した。
「おはようございます室長。今どちらにいらっしゃいますか迎えに行きますから……」
「エッ、室長……、大丈夫です。地図を見乍ら向かってますからもうすぐ着くと思います」
「そうですかぁ……、それじゃビルの下に出て待ってます――」
 (室長って誰のことだろう……、うん? まさか私?)
 怜音はソウルでの肩書を聞かされていなかった。怜音はラバーズソウル支局の室長と言う肩書になっている事をミッコも言い忘れていたのだった。そうとは知らない怜音は頭の中がクエッションマークでいっぱいになる。
(なんだろうなぁ……、室長って?)
 少し歩くとガラス張りの近代的なビルの下で一人の女性が怜音に声を掛けてきた。
「あのう、失礼ですが怜音さんですかぁ……」
 流暢な日本語である。
「ハイ、あなたは?」
「私は今日からラバーズソウル支局でお世話になりますセヨンと言います。よろしくお願いします。室長をお迎えに来ました」
「エッ、室長? この私が……」
 突然のことに怜音の頭の中は更にパニックになる。しかし迎えに来たセヨンは踵を返すと何も言わず怜音を導く様にして目の前にそびえるビルの中へと入って行く。怜音は彼女に吸い寄せられるようにビルの中へ入って行った。怜音は心中穏やかではなく、何が何だかわからないままに時が流れていくのを呆然と見送るしかなかった。

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