「韓流ラブストリー 恋の糸」第41話

「韓流ラブストリー 恋の糸」(スカイプが繋ぐ恋 四十一話)
著者:青柳金次郎


SKグループに対しての策があるといったジャンヨルは翌日、本社と連絡を取り合って一旦SKグループへのM&Aを中止した。それをマスコミで大々的に発表する、それによりSKグループの上がり続けていた株価がひとまず落ち着きを取り戻した。そればかりか一気に上がった分、サムスンがM&Aを取りやめたことにより、徐々に株価は下がり始めた。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第41


「どういうことなの? サムスンがM&Aをやめるってどういうこと……」
「分かりません。今調査中ですが、おそらく一般株の買い占め計画がバレたのかもしれません――」
「そんな馬鹿な……、こんなに早く察知されるはずがないわ……」
(これではうちの会社の価値がどんどん下がっていってしまう……)
その頃日本ではミッコと武人がスカイプで連絡を取り合っていた。
「落ち着いたわね、武人――」
「ああ、ジャンヨルの打った手は間違っていなかったみたいだね――」
「この後どうするつもりなのかしら?」
「たぶん相手の出方を見るんじゃないのかな……、でもどっちにしてもSKグループは慌ててるだろうね」
「しかし驚いたわねぇ、サムスンにM&Aを仕掛けさせて、それを公表し、SKグループの令嬢とサムスンの次期社長ジャンヨルの婚約を発表することで株価を釣り上げ、上がりきったところで一気に売り。そしてあがった利益で直ぐに市場に出回っている20%のサムスン株を買いあさり、M&Aで共有する株と合わせて38%の株を取得しある程度の経営権を手中に収めようとするなんて……」
「おそらくその後は徐々にサムスン株を買いながら乗っ取りを考えていたんだろうなぁ……」
「あのサミンっていう令嬢もなかなかの兵ね。油断はできないわ……」
「ああ、いろんな手を使ってサムスンの屋台骨を揺るがし、乗っ取りを考えている奴は大勢いるからねぇ――」
「今後も要注意ね!」
「ああ――」
そのころラバーズソウルでは怜音が最後の詰めを行っていた。
「フンニ、あんまりじゃない……、信じていたのに――」
「……すみません。イルリョンの会社がヤバイと聞いて何とかしてやりたいと思って、そして理由を聞くとサミンの名前が出てきて……、後は連絡が入りイルリョンの会社を守りたければラバーズの情報を流し協力しろと……」
「なんでラバーズの情報が欲しかったの? 相手はサムスンなのに……」
「今回のサムスン株の買い占めに成功した後、SKグループはラバーズへのM&Aを考えていたようです。その事前調査というわけです」
「まぁ、その動きがあったからこそ、あのどう考えても無茶苦茶な婚約発表の謎が解けたんだけどね――」
「フンニ……、申し訳ないけど会社は辞めてもらうわよ、こればっかりはどうしてやる事も出来ない……」
「分かっています。みんなと別れるのは辛いですけど覚悟の上です――」
「……残念だわ、イルリョンのこと相談してほしかった。サムスンもラバーズもSKグループに対して断固たる処置をとっていくと思うわ、こんな形になるなんて……」
その日、憂鬱な気持ちのまま怜音は会社を後にした。少しうつむき加減で歩く怜音の背中に誰かが呼びかける声がする。
「怜音さん!」
「…………」
振り返った怜音の前に立つのはイルリョンだった。怜音は黙ってイルリョンの顔を見詰めた。イルリョンも怜音の気持ちを忖度するような表情で怜音を見め、そしてなんと言葉を吐いた。

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第41


「申し訳ありませんでした。最初はこんなつもりではなかったんです――」
「残念だわ……、イルリョン。楽しい日々が一瞬にして消えてしまった気がしてならない……」
そういうと怜音は嘆息をもらし、踵を返した。イルリョンはその怜音の背中を見詰めた。
怜音にはイルリョンの顔を見る余裕はなかった。ただ今は家に帰って一人静かに心の整理をしたいと思うばかりだった。
自宅に帰った怜音は直ぐに浴室へと向かい熱いシャワーを浴びた。心の中に立ち込めていたもやもやしたものが少しだけ治まった気がした。浴室を出て冷蔵庫を開けてハイトビールのプルタグを抜いた。そして一気にビールを乾いたのどに流し込むと、シュワシュワと乾いた咽喉を滑り落ちるようにして空っぽの胃袋へと落ちていった。
「フゥ―」
体からスーッと力が抜けていくような感覚になった。だがサミンの跋扈な様を思い出しやりきれない思いが再び怜音を襲う。怜音は両手で頭を抱え煩悶する。そこへスカイプのコールが鳴った。PCを見るとジャンヨルからだった。
「やぁぁ、大変だったなぁ……」
「うん、久しぶりに堪えたわぁ、大切な仲間があんな風にして消えていくなんて……」
「ごめんな、もっと俺がサミンを、いや、SKグループに目を光らせていればこんなことにはならなかった――」
「ううん、それは違うわよ。ジャンヨルのせいじゃないわ! 私たちを取り巻く環境が油断をしたら一瞬にして寝首を掻かれてしまう世界なだけよ――」
怜音はあえて覚めたものの言い方をして、罪の意識を感じているジャンヨルを擁護した。
「でも、ジャンヨル、私たちは何時までも一緒にいようね……」
「ああ、ずっと一緒にいよう!」
その翌年の春、純白のウエディングドレスに身を纏った怜音の姿があった。勿論、隣には真白なタキシード姿のジャンヨルが怜音に満面の笑みを向けている。
「怜音、おめでとう!幸せになってね――」
アミが怜音とジャンヨルを祝福する。ミッコも武人も屈託のない笑顔で二人を見詰めている。
「ジャンヨル、怜音さん、幸せにならないとだめよ。それからたまには池袋にも寄りなさい。何時でも温かいご飯用意して待ってるからね――」
池袋の叔母さんが顔をくしゃくしゃにして微笑んでいる。
「ジャンヨル、これからが大変だぞ! 家族と会社両方とも大切に守っていかなきゃならん。覚悟はいいな――」
「勿論、俺は父さんのようにはならないよ。家族を大切していくよ!」
「ウッ! こいつめぇ、言ったなぁ――」
父、チャンヨルは喜びの笑顔を浮かべながらジャンヨルと怜音を見詰めた。

                      了

青柳金次郎「韓流ラブストリー 恋の糸」第41

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